プロスペクト理論とは?
プロスペクト理論は、人間が不確実な状況で意思決定をする際の心理的な傾向を説明する行動経済学の理論です。
トレーダーは、合理的に判断しているつもりでも、この理論で説明されるような心理的なバイアス(偏り)の影響を強く受けています。
4つの主要な心理的バイアス
プロスペクト理論は、以下の4つの要素でトレーダーの行動を説明します。
参照点依存性
私たちは物事を「絶対的な価値」ではなく、「現在の状況(参照点)」との比較で判断します。
例えば、年収500万円の人が550万円になると喜びますが、年収700万円の人が650万円に下がると不満を感じるでしょう。この「参照点」は人によって異なります。
損失回避性
人は、同じ金額の利益を得る喜びよりも、損失を被る苦痛を約2倍大きく感じます。
そのため、私たちは損をすることを極端に嫌い、リスクを回避する傾向があります。この心理が、小さな利益はすぐに確定し、損失はなかなか確定できない「利小損大」の原因となります。
逓減感応度(ていげんかんのうど)
利益や損失の金額が大きくなるにつれて、その感動や痛みの度合いが鈍化していく現象です。
たとえば、1万円を失うことは大きな痛みですが、100万円を失った後では、もう1万円を失ってもほとんど何も感じないかもしれません。この感覚の麻痺が、さらなる大きな損失につながることもあります。
確率の歪み
私たちは、低い確率を過大に評価し、高い確率を過小に評価する傾向があります。
宝くじのようなめったに当たらない出来事を過剰に期待したり、飛行機事故のような稀な危険を過度に恐れたりするのは、この心理によるものです。
なぜこうした心理が備わっているのか?
これらの心理的傾向は、私たちが進化の過程で生き延びるために獲得した適応的な性質だと考えられています。
例えば、「参照点依存性」は、状況の変化をいち早く察知するための本能ですし、「確率の歪み」は、たとえ稀であっても致命的なリスクを避けるための生存戦略でした。
しかし、これらの心理は自然界では有利に働きますが、金融市場のような「人工的な環境」では、しばしば非合理的な行動を招き、不利に働くことがあります。
トレードにおける具体的な影響
プロスペクト理論は、トレードの様々な場面で影響を及ぼしています。
利小損大:小さな利益はすぐに確定する一方で、損失は「いずれ戻るだろう」と先延ばしにし、結果としてトータルでマイナスになる。
ナンピン:損を認めたくない心理から、損失が出ているポジションをさらに買い増し、致命的な損失を招く。
損切り貧乏:小さな損が続き、心理的な耐性が低下して、ルールを破った結果、一度に大きな損失を出してしまう。
過信:トレードで連勝が続くと、根拠なくロットを急に上げてしまい、冷静な判断を失って大損する。
これらの心理的な罠を理解することで、感情に流されず、より客観的なトレード判断ができるようになります。
トレードに影響を与える「双曲割引」
双曲割引(時間割引の非合理性)は、将来の大きな利益よりも、目先の小さな利益を過大に評価してしまう心理です。これは、プロスペクト理論とは別の理論ですが、トレードに大きな影響を与えます。
具体例: 長期的に資金を増やすためにはロットを抑えるべきだと分かっていても、目の前の小さな利益をすぐに確定したくて、衝動的にエントリーしてしまう。
「今すぐ1万円をもらう」ことと「1年後に10万円もらう」ことのどちらかを選ばされると、多くの人が前者を選んでしまう。
対策方法
こうした心理的な罠を克服し、トレードで安定した結果を出すためには、感情に流されない仕組みを作ることが重要です。
明確なトレードルールの設定
エントリーとエグジット(損切り・利確)の基準を事前に決め、それに従って機械的に実行します。感情的な判断が入る余地をなくすことで、ルールに基づいた一貫したトレードが可能になります。
トレード記録の活用
すべてのトレードを記録し、なぜその判断を下したのか、そのときの感情はどうだったのかを具体的に書き残します。これにより、自分の心理的な癖やパターンを客観的に把握し、改善点を見つけることができます。
期待値に基づいた思考
一度の勝ち負けに一喜一憂せず、「このトレード手法は、長期的に見てプラスになる可能性が高いか」という期待値を重視します。目の前の結果ではなく、最終的な結果に焦点を当てることで、冷静さを保てます。
結論:心理を制する者がトレードを制す
プロスペクト理論や損失回避性、双曲割引といった心理バイアスは、単なる知識ではありません。これらは私たちの行動に直接影響を与え、利益を減らす原因にもなり得ます。
チャート分析のスキルはもちろん重要ですが、それ以上に自分自身の感情や心理的な癖を理解し、制御することが、トレードで勝ち続けるための真の「優位性」となります。